デスクワーク

工場での仕事を終えると、本来の仕事であるデザインやイラストの仕事を再開すべく机と椅子を購入。1日の大半を座り続けるという生活に切り替えた。

だが、工場での仕事の疲れかほとんど何も手に付かず、1ヶ月ほどゴロゴロしていた。こんなに何もしないという生活は初めてだった。あっという間に数ヶ月経ってしまった。若いので全く焦っていない。何とかなると思っていた。そして実際何とかなった。

以前、学生の時にバイトでお世話になっていた会社の社長が突然電話をしてきた。「今何してんの」「パソコンを覚えて、ソフトの使い方とか勉強してます」「そう。一回会社に遊びに来なよ」言われるままに、都内のある住所をメモした。

その社長は都内でイベント会社を経営していた。会社といっても有限会社で、バイトと社員の区別もあまり無いような小さな会社だ。専門学校を卒業して特に当てのなかった自分は、一時期そこにお世話になっていた。

学生気分が抜けていなかったので、展示会やイベントといったいわゆる広告代理業務はけっこう楽しかった。新宿の駅前や大きいのだとモーターショーなどでブースを作り、コンパニオンを並べてパンフなどを配るという仕事だ。 そういった現場でADのようなことをやっていた。

本命はデザイン関係の仕事だったので、その仕事は社会勉強程度のつもりでやっていた。当時はコンピューターとアナログ作業が入れ替わる境目の時期で、これから先はパソコンを使えることが必須だった。DTPという言葉が聞かれるようになった時期だ。携帯が5万とか6万。月の契約料だけで1万とかいう時だった。

携帯を持っているだけで尊敬された。といっても、ほんの数年前の話だ。携帯やパソコン等の端末がここまで普及するとは思っていなかった。

そのイベント会社の社長が、突然電話をかけてきて来いという。デザインの仕事も当てがなく、近所でバイトでも始めようかと思っていた時だったので、とりあえず行ってみることにした。

会社はでかくなっていた。 有限が株式になり、住所は恵比寿から赤坂に移っていた。社長の車はボロの1BOXからキャデラックに変わっていた。彼は成功したのだ。ほんの数年前まで、幕張メッセの会場の隅で一緒に段ボールに入った販促のCD-ROMを数えていた時とはえらい違いだ。でも、自分に接する態度は変わっていなかった。

パソコンと合わせて絵の勉強もしているという話をすると、「じゃ、ここになんか服のデザイン画でも描いてみてよ」と、何かのチラシを渡された。チラシの裏にラフで服のデザインを描く。「ふーん。いいんじゃない」その紙を持って立ち上がると、彼は「よし、じゃあ今から代理店に行こうか」という。今から?

突然の事だったのでビビッた。広告代理店。しかも大手だ。社長はそこから仕事をもらうようになっていたのだ。そして、本当にそのチラシに描いたラクガキのような絵を持ったまま、都内の某広告代理店に連れていかれてしまった。

 



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